ビジネスドキュメント3
技術者のこだわりは自己満足であってはならない
内田 泰文 (高崎工場 係長)プロフィール
工業高校機械科・大阪デザイナー専門学校デザイン学科卒。2004年11月入社。本社工場の印刷オペレーターとして印刷技術を身に付け、印刷通販の急成長に貢献。2009年9月、立ち上げ間もない七条工場の責任者に。2010年3月稼働の高崎工場の立ち上げ責任者に係長として抜擢。
品質にこだわれば際限のない印刷という仕事
帰宅途中のバイクの車上。今日、工場の仲間に何を話し、何を伝えることができたかをいつの間にか考えている自分にふと気がつき、内田は苦笑する。技術者としてのキャリアが始まった5年前の自分からは想像もつかなかったことだ。あの頃は悩むことといえば機械の調子や納期だけで、自分の役割など考えたこともなかった。今は違う。
もちろん、技術者のスキルは品質に直結する。毎日同じような作業を行っているようでいて、紙質や気温・湿度といったほんの少しの条件の違いで結果が驚くほど変わってしまうのが印刷なのだ。一方で、お客様によって、また印刷物の目的によって、何がベストなのかも変わってくる。そこには無数のやり方があり、「いつもと同じやり方」で満足できる作業など、ひとつとしてない。
当たり前を当たり前と思うな
だからこそプロは自分の仕事に線を引いてしまいがちだ。プライドにかけて一定レベルまでは努力するが、クリアできれば一応満足してしまう一線。枠の中で自己完結してしまう傾向が、印刷業界では特に強いと内田は感じる。それが不思議でしかたなかった。
ある時に経験した、印刷物に不可解な白筋が残るトラブル。印刷機メーカーの技術者を呼んで調べても原因はわからない。結局、ある設定にすれば発生頻度を下げられるという指示だけを残して、その技術者は帰っていった。作業効率だけを考えれば、それ以上原因を追究して根本的解決を目指すよりも、対症療法を重ねていく方が有利かもしれない。それが印刷業界の「当たり前」なのだということもよくわかる。
しかし、そういった運用方法を覚えていくことが、熟練技術者の証として評価されるのが印刷業界の慣行だとしたら、やはりおかしい。そもそも、担当者が変われば結果に違いが出るような仕事のやり方が、お客様に対して誠実だと言えるのだろうか。
何のための技術、誰のための技術なのか
悩んでいた内田の迷いを振り払ったのは木村社長の言葉だった。「判断の基準を常にお客様の視点に置けば迷うことはない。もしそれが世間の常識と違うのであれば、世間の常識を変えていけばいい」。技術者としての自分のこだわりは、顧客の視点で考える会社の方針と一致する。そう実感できたことで自分は変わったと内田は思う。何ごとも確信がもてるまで調べ、実際に試してみることに迷いはなくなった。
それを今度は仲間に伝えていくことが自分の役目だ。七条工場の責任者になったことで、内田が背負った新たな課題である。企業の成長と共に、技術者としての自分も成長し、様々な視点から物事が見えるようになった。しかし、かつての自分がそうであったように、「お客様のために」という意識を頭ではなく体で理解するには時間がかかる。仲間の成長のためにはどうすればいいのか。人と人とのコミュニケーションは、人と機械とのコミュニケーションよりさらに難しい。
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